仲哀天皇とホムヤワケは九州王朝への「人質」だった！

『古事記』の仲哀天皇の記述を見ていると、不審な点があります。

『古事記』によると仲哀天皇の宮殿は「穴門の豊浦宮」（下関市）と「筑紫の訶志比（香椎）宮」（福岡市）です。いずれも九州王朝の勢力範囲内です。

　つまり、仲哀天皇は敵の本拠地の目と鼻の先に宮を構えて、そこで戦闘を開始した、ということになります。しかも、見事に敗北しています。

　果たして、そのようなことがあり得るでしょうか？

　そもそも、どうして大和王朝の大王なのに大和で即位しなかったのか、不明です。（もっともこの時期の大和王朝は近江に本拠地を移していたようですが、仲哀天皇が即位したのはその近江でもありません。）

　さらに、これまでのブログ記事に書いたとおり、仲哀天皇の息子のホムヤワケも即位せずに九州に留まっています。もっとも、この場合は異母兄の忍熊王が宇治天皇として近江を拠点に即位していた訳ですから、九州王朝の勢力圏で即位した大王は仲哀天皇だけです。

　結論から言うと、私は仲哀天皇とホムヤワケは九州王朝に人質として取られていたのだと思います。

　仲哀天皇の父親は九州王朝の大王を暗殺したヤマトタケルであり、ホムヤワケの父親は九州王朝と戦って敗死した仲哀天皇ですから、人質として取られてもなんら問題はありません。

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　さて、仲哀天皇は302年に26歳で亡くなる訳ですが、それでは大王に即位したのはいつなのでしょうか？

　仲哀天皇の前の天皇は成務天皇です。成務天皇はヤマトタケルの弟で景行天皇の息子であり、仲哀天皇からは叔父さんに当たります。

『日本書紀』では仲哀天皇の前の成務天皇が「庚午」の年に崩御し、翌年の「辛未」の年に埋葬された後、「壬申」の年の正月に仲哀天皇が即位した、ということになっています。

　つまり、成務天皇の崩御から仲哀天皇の即位までに「庚午――辛未――壬申」と、一年間の「空位」期間があった、ということになります。

　もっとも、『日本書紀』の編年は成務天皇が107歳まで生きたという史実とは認めがたい伝承を基にしていますから、それがそのまま事実かはわかりません。『日本書紀』では成務天皇の在位期間はちょうど干支一巡の「60年」となっており、胡散臭さを感じます。

　ですから、ここでわかるのは「成務天皇の死後、直ちに仲哀天皇が即位したわけではない」ということだけです。

　それでは、『古事記』を見てみましょう。

『古事記』では成務天皇は「乙卯」の年に95歳で崩御したということになっています。95歳は倍数年暦なので、数えで48歳です。

　そして、仲哀天皇の前の乙卯の年ですから、西暦295年です。この時の仲哀天皇は数えで19歳です。古代だと若干若い者の大王に不足はありません。

　血統的にも、成務天皇の実の子ではないものの、あのヤマトタケルの息子ですから、決して「悪い血統」ではなかったでしょう。

　ところが、『日本書紀』では仲哀天皇が即位するまでに一年の空位期間があったことになっています。そして、その空位の理由を『日本書紀』は記していないのです。

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　考えられることは、仲哀天皇にとって「ヤマトタケルの息子」という血統が、実際には大王即位の「足枷」であった、ということです。

　彼が九州王朝への人質であったならば、話は分かり易くなります。

　恐らく、真相は次のようなものだったのでしょう。

『古事記』や『日本書紀』の記述では、成務天皇は近江に宮殿を構えていました。宇治天皇の時代まで大和王朝は一時的に近江が拠点となります。

　その間、仲哀天皇は「ヤマトタケルの息子」として九州王朝へ人質として送られます。九州王朝からすると、大和王朝と不必要に争いたくありませんから、安心材料が欲しかったのでしょう。

　転機は295年に成務天皇が48歳で没したことです。成務天皇には和謌奴気王という子供がいましたが、彼のことは歴史に残っていません。もしも仲哀天皇と大王の位を争ったのであれば記録に残るはずですから――『古事記』や『日本書紀』には皇位継承争いの記録は山ほどあります――彼はまだ幼くて大王の位を継げなかったのかも、知れません。

　しかし、だからと言って九州王朝に人質としている仲哀天皇がすんなりと大王として即位できるのか、というとそうは問屋が卸せません。九州王朝からすると「人質」を簡単に大和に返すのには抵抗があります。

　一年以上の押し問答の末、297年に仲哀天皇は九州王朝の目と鼻の先である山口県の豊浦で大王として即位することになります。九州王朝の「監視下」での即位なわけです。

　無論、それでは大和王朝の諸臣も納得できませんから、妥協案が香坂王と忍熊王（宇治天皇）を父親・仲哀天皇の「名代」として近江に派遣することだったのでしょう。

　さらに、九州王朝は彼の宮殿を九州王朝の本拠地である「筑紫の香椎宮」に移せ、と命令します。大和王朝の大王からすると、これはとんでもない屈辱です。

　仲哀天皇は5年近くその待遇に我慢しますが、耐えきれなくなり302年に九州王朝相手に反乱を起こし、戦死します。

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　一方、大和王朝では仲哀天皇の長男の香坂王がイノシシに食べられてしまい、次男の忍熊王が大王に即位します。彼が宇治天皇です。

　九州王朝からすると、宇治天皇率いる大和王朝が「父の仇！」とでも言わんばかりに筑紫に攻めて来られるとかないませんから、仲哀天皇の愛妃であった神功皇后とその息子のホムヤワケを人質に取ります。

　宇治天皇も腹が違うとはいえ自分の弟を人質に取られているわけですから、九州王朝と戦うのはやめます。もっと言うと、父親が戦死した上に兄がイノシシに食われたとなれば、戦争をする気も失せるでしょう。

　それに不満を持ったのが神功皇后です。神功皇后からすると本当は息子のホムヤワケを大王にしたかったのに、九州王朝に人質に取られて身動きが取れないのです。

　そうした中、ホムヤワケに息子が産まれます。ホムダワケ（応神天皇）です。

　これを奇貨とした神功皇后は、孫の応神天皇とともに大和・近江へ東征します。

　九州王朝もホムヤワケを人質としておくことを条件にそれを認めたのでしょう。

そうして、実質九州王朝を背後に控えた神功皇后・応神天皇に宇治天皇は敗北した――これが、真相であると思われます。

　それでは、そもそものきっかけとなった「ヤマトタケルによる九州王朝の大王暗殺」とは一体、どのような事件だったのでしょうか？

　そのためにはまず、ヤマトタケルの活躍した年代を推定する必要があります。

　次回以降はヤマトタケル前後の天皇の即位年と崩御年を考証していきます。

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