谷口雅春先生の悲願は決して「憲法改正」では無い

　先日、私は日本会議の女性観が生長の家とは明らかに異なるという記事を書きましたが、そもそも今時、このような時代錯誤な考えを公式サイトに掲載するのは日本会議ぐらいでしょう。

snitennoukokunippon.hatenadiary.com

　しかしながら、それだけだと「時代錯誤なおっさんが日本会議にいる」と言うだけで終わる話かもしれませんが、生長の家の御教えの立場からするともっと深刻な問題があるのです。

　日本会議系の団体に「谷口雅春先生を学ぶ会」（以下、学ぶ会）と名乗る団体があります。その団体は生長の家とは対立する宗教法人です。

　そして、先日のブログでも引用した安倍元首相退陣時の「安倍首相、本当に本当にありがとうございました！」なる文章で、学ぶ会は次のように述べています。

ともあれ、尊師・谷口雅春先生のご悲願である憲法改正は、何としても成し遂げなければならない最重要課題です。安倍首相の辞任の悲しみを乗り越え、憲法改正に向け、その国民世論を喚起し、盛り上げていくべく、「谷口雅春先生を学ぶ会」はもっともっと大きな力をもたなければなりません。

今年３月、宗教法人を取得し得たのも、決して偶然ではない。更なる飛躍を期待しての、神様からの、尊師からの御導きではなかったか。その負託に応えるべく、私たちは前進していかなければなりません。

manabukai.org

　しかし、この文章は明らかに誤りです。ハッキリと言わせていただきますが、大聖師・谷口雅春先生の悲願は決して「憲法改正」では無いのです。

生長の家は自民党政権による憲法9条改正に反対
- ２．九条改憲に反対する
大聖師・谷口雅春先生は二つの意味で“改憲派”ではない
『日本国憲法』の改正を主張はしていない
岸信介の「自主憲法制定国民会議」と訣別した大聖師
谷口雅春先生「９条改正は国家百年の大計を誤る」
お薦めの書籍

生長の家は自民党政権による憲法9条改正に反対

　まず最初に大前提として、現在の生長の家の『日本国憲法』第９条に関する見解を引用しておきます。

２．九条改憲に反対する

今回の衆議院選挙では、私たちは自由民主党（安倍晋三総裁）が打ち出した公約の一つである、「憲法第９条の改正」に反対します。自民党の９条改憲案の「自衛隊の明記」は、「現状の自衛隊の追認だから問題ない」と安易に考えることは間違いであり、日本国憲法の平和主義や基本的人権の保障を脅かす危険性があると考えるものです。

「自衛隊」という言葉を憲法第９条に明記することは、２０１５年に強行採決された集団的自衛権の限定行使を認めた安保法制を含めて確定することになり、それによって自衛隊の役割が拡大し、米軍と共に軍事行動する機会が増える可能性があります。アメリカの個別的自衛権と「有志連合」の集団的自衛権のそれぞれの発動によって始まったアフガニスタン戦争のような米国主導の戦争に、自衛隊が進んで参加する、あるいは参加させられる可能性が高まります。

また、９条への「自衛隊の明記」は、自衛隊や在日米軍の活動や集団的自衛権行使が自由にできるようにするため、これを監視する国民の「知る権利」や、反対の意思表示をする「表現の自由」などの基本的人権を大きく制限する根拠を与えることになります。実際に、自衛隊の南スーダンの派遣施設隊の日報問題では、政府にとって“不都合な事実”が隠蔽されたり、森友学園・加計学園問題でも、安倍首相個人にとって“不都合な真実”が政府や省庁、一部マスコミを巻き込んで隠蔽されたことをみても、「知る権利」や「表現の自由」が制限されることは同政権の“体質”とさえ言えるでしょう。

自民党は、北朝鮮のミサイル問題があったから、「九条改憲」を言い出したのではなく、２００５年に「新憲法草案」（第１次草案）を策定し、また２０１２年には、「日本国憲法改正草案」（第２次草案）を策定して、その中では、「自衛隊」ではなく、「国防軍」を保持することを堂々と掲げていました。自民党の本音は、「自衛隊の明記」ではなく、国防軍――つまり軍隊を憲法上に明記することであることは知っておく必要があります。ですから、安倍政権の“日本軍国化”のねらいは、「９条改憲」の一つを見ているのでは全貌が分かりません。憲法だけでなく、いくつもの法律の改正、新設、閣議決定、具体的政策などを総合して見ることで、その本当の危険性が露わになります。

すなわち、平和安全保障法、特定機密保護法、共謀罪の強行採決、武器輸出の解禁、軍民両用研究の推進、教科書検定への介入強化などに、今回の自衛隊の９条明記を組み合わせれば、日本の軍事力を増強し、かつ自由に集団的自衛権を行使でき、自衛隊の活動や安全保障に関する情報を隠し、反対するものは徹底的に排除する国を作り上げようとしているとの疑いが深まります。加えて言えば、“教育無償化”の動きには対価があります。タダの教育と引き替えに、政府のさらなる教育内容への介入がやり易くなるという側面を知っておく必要があります。

世界の平和を軍事力や核の抑止力によらず、唯一絶対の神への信仰によって持ち来そうとする生長の家は、このように、日本国憲法の平和主義を後退させ、主権者である国民の権利を縮小し、軍事力の増強、米軍との一体化によって、東アジア地域の緊張を高める結果となる９条改憲案に反対し、立憲主義をないがしろにして、日本の軍国化をめざそうとする安倍政権に対して、明確に「反対」の意思を表明するものです。

www.jp.seicho-no-ie.org

　ここにおける「憲法９条改正反対」は厳密には「自民党の９条改憲案の『自衛隊の明記』」への反対ですが、現時点で憲法改正が発議されるとすれば自民党の賛成が不可欠ですから、これは事実上の現時点における憲法改正反対の意味と受け止めていただいて構いません。

　これについては、日本会議側と左翼側の双方が「生長の家が転向した！」と言っている訳ですが、これは転向ではなく谷口雅春先生の御教えに従った結果として自民党改憲草案には賛同できないと言うことです。

大聖師・谷口雅春先生は二つの意味で“改憲派”ではない

　無論、谷口雅春先生は確かに『日本国憲法』の問題点を指摘はされていました。が、だからと言って「改憲派」のレッテルを貼るのは、かつて一部の左翼活動家がしていたミスリードです。

　ちなみに、いわゆる「改憲派」には次の二つの意味があるようです。

①『日本国憲法』の改正を主張する派

②自民党政権による憲法改正に賛成する派

　マスコミの言う「改憲勢力」は①の意味か、②の意味か、必ずしも明確ではありません。①の意味だと立憲民主党にも改憲派はいますし、日本共産党も将来的な改憲は否定していません。また、②の意味だとマスコミが「改憲勢力」に分類している国民民主党も定義から外れます。

　ただ、いずれの意味でも谷口雅春先生は「改憲派」ではありません。

　これはどういうことかと言うと、

①谷口雅春先生は『日本国憲法』の改正を主張していない

②谷口雅春先生は自民党改憲草案のような内容にむしろ反対であった

と言うことです。

『日本国憲法』の改正を主張はしていない

　まず①についてと言うと、前提としてこれは憲法学の通説ですが（学校では高校まではこの辺りをきちんと教えていないので誤解している方も多いのですが）、『日本国憲法』は『大日本帝国憲法』の改正で成立した訳ではないという事実があります。

　これについての詳細は稿を改めて論じますが、現在の憲法学界の通説は八月革命説と言って、『日本国憲法』は一種の革命憲法であって『大日本帝国憲法』との連続性は無い、というものになります。

note.com

　しかし、谷口雅春先生はその「八月革命」なるものの正統性を認められなかった、『日本国憲法』の成立過程には大きな瑕疵があるのであるから正統な憲法ではない、という旨の主張をされていました。

　ただ、注意しないといけないのは、それは『日本国憲法』の内容の評価とは別問題で、成立過程を問題視していたと言うことです。

岸信介の「自主憲法制定国民会議」と訣別した大聖師

　確かに谷口雅春先生は『日本国憲法』の内容面にも問題を指摘はされていました。しかし、それは主として『日本国憲法』が家族国家の理念に反対することを問題視していたのであり、いわゆる現在の自民党ら改憲派の主張とは論点が大きく異なっていたのです。

　と言うよりも、それは現在異なっているだけでなく、当時から異なっていたのでした。

　そもそも、谷口雅春先生は１９７４年の時点で岸信介の自主憲法制定国民会議と訣別しています。これは日本会議どころか、その前身団体である日本を守る会が結成されるよりも前の話です。

snitennoukokunippon.hatenadiary.com

　と言うよりも、自主憲法制定国民会議の方針を支持できないからこそ、谷口雅春先生は日本を守る会の結成に参画されたのでしょう。

　ところが、皮肉にも日本を守る会の後身団体である日本会議が岸信介の主張を事実上引き継いでしまっているのが今の日本の状態な訳ですが。

谷口雅春先生「９条改正は国家百年の大計を誤る」

　「『日本国憲法』の問題点を指摘している時点で自民党と同じだろ！」と主張する方が特に左翼の方にはあまりにも多くて困るのですが、ここで②の問題に移ろうと思います。

　とは言え、谷口雅春先生の主張と自民党や日本会議の違いはあまりにも多すぎるのでまずは『日本国憲法』第９条の問題に絞ることとします。

　谷口雅春先生は『諸悪の因　現憲法』という著書を執筆しており、如何にも『日本国憲法』改正派が喜びそうな表題ですが、そこではなんと明確に自民党が今やろうとしているような憲法９条改正への反対が記されているのです。

　谷口雅春先生はまず三島義挙について紹介します。

　三島由紀夫は自衛隊施設で割腹自殺した作家ですが、この三島由紀夫が確かに憲法９条の改正案を持っていたことを述べた上で、次のように触れられているのです。

そしてまた三島さんは、この第９条のみを改正しようという部分改正では、却って日本は米軍事体制の好餌となり、日本の自律は更に失われるであろうと考えておられたのであります。
　第一章の“天皇の地位は国民の総意による”という条項の改正なしに、第二章第九条の戦力放棄放棄条項のみの改正では、国家百年の大計を誤ることになるのであります。
（谷口雅春『諸悪の因　現憲法』８６頁）

　他にも谷口雅春先生は憲法９条についてこうも述べられています。

　この条項に書かれている「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇」「武力の行使」を放棄するのは、「国際紛争を解決する手段としては」であって、「国家防衛の手段としては」放棄するのではないという解釈で、今の自衛隊ができているのであり、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」とあるのは、「前項の目的を達するため」と示されている通り「国際紛争を解決する手段としては」陸海空軍をもたず、また国の交戦権は認めないのであって、「自衛のためならば陸海空軍はもってよいし、国の交戦権もあるのだ」ということになっていて、自衛のためならば核兵器をもってもよいというふうに拡大解釈される方向に進みつつあるのである。だからこの“戦争放棄”の条項は、ぜひとも改正しなくとも自衛隊や国防軍をもつことができないわけではないから、この第九条の戦争放棄のみが問題であるならば、日本国憲法の改正を必要とする必須の問題ではないのである。
（谷口雅春『私の日本国憲法論』１１４～１１５頁）

　これらは当時の時代に合わせての言葉ですが、今の時代に合わせて考えるとどうなるでしょうか？

　今の日本は「自衛のためならば核兵器をもってもよいというふうに拡大解釈される方向に進みつつある」どころか、堂々と政治家が核共有の議論をしている有様です。「“戦争放棄”の条項は、ぜひとも改正しなくとも自衛隊」を持てる訳ですから改正の必要はない上に、安倍政権が制定した「戦争参加法制」によりまさに「日本は米軍事体制の好餌となり、日本の自律は更に失われる」有様であって、そのような憲法改正に賛成すると「国家百年の大計を誤ることになる」ことは明白なのです。

　冒頭で引用した教団声明には、まさにそのことが記されていています。

「自衛隊」という言葉を憲法第９条に明記することは、２０１５年に強行採決された集団的自衛権の限定行使を認めた安保法制を含めて確定することになり、それによって自衛隊の役割が拡大し、米軍と共に軍事行動する機会が増える可能性があります。アメリカの個別的自衛権と「有志連合」の集団的自衛権のそれぞれの発動によって始まったアフガニスタン戦争のような米国主導の戦争に、自衛隊が進んで参加する、あるいは参加させられる可能性が高まります。