生長の家が大昔に自民党を支持しそして訣別した理由
「生長の家は反自民です」と言うと、ネット上で「元々は自民党を支持していたじゃないか!」という反論が来ることがあります。
これについて、少し頭を冷やして考えてほしいのですが、55年体制下では伝統宗教・新興宗教を問わず多くの宗教団体が自民党の支持母体であったという事実が、まずあります。
この辺りの事情を説明するために、当時の政治の状況を見てみましょう。
当時の主な政党は、次の5つです。
・民社党
・公明党
そして、最大野党の日本社会党を含め、多くの野党は候補者を過半数も擁立していなかったという事実があります。
つまり、政権交代の可能性が皆無に近い状況であった、と言うことです。
「候補者過半数を擁立する」と言うのは、政権を握るための必須条件です。この条件を満たさないと、どんなに人気のある政党でも政権を握れず、政権を握れないならば政策を実現できません。
旧国民民主党の議員が2017年の総選挙で希望の党に参加し、2021年の総選挙では立憲民主党に参加したことを「転向」扱いする人がいますが、2017年の総選挙で過半数の候補者を擁立した野党は希望の党だけですし、2021年の総選挙で過半数の候補者を擁立した野党も立憲民主党だけです。彼らは本気で政権交代を目指しているからこそ、希望の党や立憲民主党へ合流したのです。
無論、生長の家は教義に基づいて政治的な発言もしている訳ですが、具体的な選挙へのかかわりについては政治の状況と全く無関係と言う訳にはいきません。
生長の家が反自民声明を出すまでの経緯と、野党共闘の進展とが重なっていることは決して偶然ではないと言えるでしょう。
年表にするとこうなります。
1983年 生長の家政治連合活動停止
1993年 自由民主党分裂(非自民の保守政党が結成)、非自民・非共産連立政権樹立
1995年 生長の家政治連合解散
2016年 野党共闘成立
同年 生長の家が与党不支持を表明
1983年の時点で生長の家は自民党と組織的には訣別していましたが、それはあくまでも「生長の家政治連合の活動停止」という曖昧な表現でした。1995年に明確に生長の家政治連合自体を解散したのは、恐らく自民党分裂と無関係では無いでしょうし、事実、同じ時期に多くの宗教団体が自民党から離れています。
こういう社会全体の大きい流れと生長の家の活動が無関係では無かったことはご理解いただけると思いますが、一方で生長の家が自民党と訣別した1983年はまだ自民一強体制が健在であった頃ですから、生長の家が主体的に政治活動を行っていたからこそ自民党と訣別したという側面も当然、ありました。
まず、これについてアカデミックの世界での評価を見てみましょう。大正大学の寺田喜朗教授はこう述べています。
生長の家は、1930 年に谷口雅春によって創始された新宗教である。谷口は、唯神実相(人間神の子)・唯心所現(心の法則)・万教帰一を唱える宗教家であるのと同時に、反唯物論・反共産主義・明治憲法復元・天皇への帰一を説き、「戦後右翼の理論的支柱」と評された政治思想家でもある。谷口は、学生運動がさかんだった時代に左翼陣営に対抗できた数少ない保守イデオローグの一人であり、日本社会の左傾化に危機感を覚える人々の受け皿になっていた。1964 年には優生保護法改正を目指して生長の家政治連合(生政連)を立ち上げ、1965 年の参院選では玉置和郎を全面支援し、854,473 票を獲得させた(1981 年には最大公称信徒数 380万)。1983 年、自民党の対応に失望し、生政連を解散、翌年には政治運動から撤退することを宣言する。
流石は学者の文章だけはあって、事実関係自体に大きな誤りはありません。ただ、生長の家政治連合が正式に解散したのは1983年ではなく1995年と言う若干の事実誤認もありますが。
ここにも書いてある通り、生長の家は『優生保護法』への反対、つまり優生思想や堕胎推奨と言った政府による生命軽視の政策への反対が生長の家政治連合結成の主な理由でした。
日本共産党や日本社会党は自民党以上の堕胎推奨派ですから、その観点からも必然的に自民党を支持せざるを得ない状況であった訳です。
無論、医療利権複合体を主な支持母体とする自民党も、本音は生命軽視派でした。ただ、保守票を獲得するために生命尊重っぽいパフォーマンスをしていたに過ぎません。
そこで1983年、生長の家は自民党に対して決別を表明した訳です。
無論、生長の家政治連合の活動を停止しても生命尊重の活動は停止された訳では、ありません。
むしろ自民党と訣別したことでより生命尊重の活動がしやすくなったとさえ言えます。
例えば、自民党と訣別した翌年に早速、このようなCMを流してお腹の中の赤ちゃんの生命尊重を訴えました。
また、『優生保護法』改正を求める署名活動も引き続き行われました。但し、私の所属する生長の家兵庫教区青年会の次の総括にもあるように、テレビCMや署名活動では限界があることが判ってきたため、平成になってからはテレビCMや署名活動は積極的には行われていないと思います。
西宮青年会、優生保護法改正の活動
昭和五十九年八月一日阪神西宮駅前で雨の中を優生保護法改正の署名運動を行い、約二時間で四百名の署名があつまった。中には黙って通り過ぎる人もあり、この問題についてはまだアピールが足りたい思いがし、単に署名を求めるだけでなく、この運動に積極的に参加してもらうよう努力しようと語り合い、これからの努力をつよく決意した。
(生長の家兵庫県教化部『生長の家人類光明化運動発祥兵庫七十年史』148頁)
しかし、プロチョイス(生命軽視派)からの様々な妨害にも屈せず、生長の家宇治別格本山では流産児無縁霊供養塔での祭祀が続けられていますし、また2006年には文部科学省に次の意見書を提出しました。
この度、文部科学省の人クローン胚の研究利用作業部会は、6月20日付で「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について」という中間とりまとめの資料を発表した。宗教法人「生長の家」は、この資料を読み、国が人クローン胚の研究・利用にゴーサインを出す一歩手前まで来たことを憂慮する。
生長の家では、人クローン胚は、ヒト受精胚と同様に胎内に戻せば人として生まれる可能性をもつものであるから、それを研究目的に利用することは、人間の命を他人の目的のために利用することになるので、反対する。今日では、倫理性、安全性、実効性に問題の多い人クローン胚を利用しなくても、患者本人の体内にある体性幹細胞(成人幹細胞)を利用した再生医療の道が開かれている。わが国はそちらの研究に焦点を合わせ、人材、資本、資金を投入すべきと考える。同中間とりまとめでは、人クローン胚由来のES細胞の樹立は、「拒絶反応のない再生医療が実現できる可能性がある」(pp. 11~12)との期待のもとに、人クローン胚を研究目的に利用することを一定の条件の下に容認している。
その一方で、同中間とりまとめは「人クローン胚は、ヒト受精胚と同様に“人の生命の萌芽”と位置付けられ、倫理的に尊重されるべきものとされている」とするが、「倫理的に尊重する」とは、具体的にどのように扱うかについては、ほとんど述べられていない。
現在の科学技術の段階では、ES細胞を作成するためには、受精卵や胚を破壊するか、あるいは手を加えて変える必要がある。これは、適切な環境下におけば人間の体に成長する生命に対して、その道を閉ざす、あるいは将来のリスクにさらすことになるから、我々は「人の生命の萌芽」として尊重していないと考える。より具体的には、生長の家は以下の理由により、人クローン胚の研究・利用に反対する。
1.同中間とりまとめに表われた論理は、大きく矛盾している
同中間とりまとめには、「人クローン胚の研究目的の作成・利用については、他に治療法の存在しない難病等のための再生医療の研究目的に限って認め、クローン技術規制法に基づく特定胚指針の改正等により必要な枠組みを整備すべきとされた」(はじめに)とある。
しかし、その一方で、28ページに「他の治療法がある場合にも人クローン胚の作成・利用を行う妥当性」という項目を設け、「臓器移植、組織移植等や、体性幹細胞等を用いた再生医療において臨床研究や応用が行われている疾患であっても、ドナー不足、拒絶反応、安全性、量の確保等、その治療に当たって何らかの問題がある場合には、人クローン胚の作成・利用を行う研究の対象として、他に治療法が存在しないものとして取り扱う」と書いてある。これでは、例外の範囲を拡大していくことで原則を実質的に否定しているに等しい。
難病治療を目的として指針を作ったのであれば、「他に治療法が無い」のが大前提であり、その前提が崩れるのであれば、直ちに研究を中止するのが当然の帰結である。2.「他者の生命の犠牲の上に成立する医療」は倫理的でない
順調に細胞分裂が行われている人クローン胚は、通常の人体がそこに現象として観察できなくても、「人の生命」が表れている“場”と考えなければならない。そこからES細胞を作成するためには、最低一個の胚を破壊し、あるいは傷つけなければならない。それは、最低一個の人間の生命から“表現の場”を奪い、あるいは危険にさらすことである。そのことが、たとえ他の人間の難病治療のために有効であっても、それは「他者の生命の犠牲の上に成立する医療」である。我々はそれを非倫理的と考えるから、反対する。3.「神経に障害をもつ人間を、他人の治療手段に利用できる」という考え方が社会に広がる可能性がある
「特定胚の取扱いに関する指針」の第7条には、「特定胚の作成又は譲渡後の取扱いは、当該特定胚の作成から原始線条が現れるまでの期間に限り、行うことができるものとする」とある。
発生後14日経過して胚に原始線条が現れるとされているが、原始線条が現れる前の段階の胚は神経細胞が未発達であるから、痛みを感じないとする論法である。しかし「痛まない生命は破壊して構わない」という考え方は、生命体の物質的側面しか認めない未熟な倫理観である。この考え方を延長させれば、痛覚麻痺に陥った人の肉体は他人の目的に利用できることになり、神経細胞の機能を重視するのであれば、その機能が衰えた神経系疾患の患者、終末期の人間の肉体も、本人の同意なくして利用可能になる。
このように、生命体に「意思」があるかどうかの判断は、神経細胞の発達度や機能の健不健を基準にすることには無理がある。初期段階の人の胚は、一旦順調に細胞分裂を開始した時点で、人間として生きる意思があると考えるべきである。そのような胚の1つである人クローン胚を、研究利用のために破壊することを容認すれば、「痛みを表現できない者」「神経に障害がある者」は他人の目的のために利用してよいという考えが、社会に広がる道を開くことになる。4.未受精卵の入手には危険が伴い、提供者に精神的、肉体的な負担を強いる
同中間とりまとめでは、生殖補助医療で使われなくなった卵子を利用してよいとしているが、不妊治療を受けている女性にとって、卵子は特別な思いのこもった存在であることに疑いの余地はない。
さらには、卵子を取り出すためには、副作用の強い排卵誘発剤を使用しなければならず、それによって死亡した人もいる。このように未受精卵の入手には危険が伴うとともに、提供者に精神的、肉体的負担を強いるものである。
そのような状況の中で、卵子提供を求めることが、妥当なことであるとは思えない。また、患者という弱い立場にいる人の気持ちを考えれば、適切なインフォームドコンセントが成立することも疑わしい。5.人クローン胚からES細胞を樹立した実績は、世界中にまだ存在しない
これは、人クローン胚利用の技術の確立がいかに困難であるかを示している。にもかかわらず、倫理的問題がある中で、実現可能性の少ない研究を推進する意味が不明である。6.再生医療の分野では、他に有望で、実績のある方法がすでに存在する
体性幹細胞(成人幹細胞)による再生医療は、ヒト受精胚や人クローン胚によるES細胞の場合より倫理的な問題が少ない。また、患者自身の細胞を使うため拒絶反応もないなど、より安全である。さらに、幹細胞の採取に際しても患者への負担が少ないものが多い。
体性幹細胞は、ヘソの緒中の臍帯血に含まれるものをはじめ、胎盤、血液、毛根、筋肉、脳、皮膚、皮下脂肪などにも分布していることが明らかになっている。なかでも造血幹細胞移植は、同中間とりまとめ中に「高度先進医療として臨床で用いられている」と指摘しているように、すでに一般的な医療となっている。これに加え、最近注目すべきことは、京大の再生医科学研究所の山中伸弥教授が、マウスの皮膚細胞の遺伝子を操作することで、ES細胞と酷似した状態を実現したことである。
アメリカの連邦食品医療薬品局(FDA)でも、次の9つの病気に対して、体性幹細胞を使った臨床治療を認めているなど、ES細胞の利用よりも確実性のある治療法である:(1) 急性リンパ性白血病 Acute Lymphoblastic Leukemia
(2) 慢性骨髄性白血病 Chronic Myelogenous Leukemia
(3) 若年性骨髄単球性白血病 Juvenile Myelomonocytic Leukemia
(4) 骨髄異形成 Myelodysplasia
(5) 急性骨髄性白血病 Acute Myelogenous Leukemia
(6) 多発性骨髄腫 Multiple Myeloma
(7) 重症複合免疫不全症候群 Severe Combined Immunodeficiency Syndrome-X1
(8) 再生不良性貧血 Aplastic Anemia
(9) サラセミアメジャー Thalassemia Major
(※ 進行性サラセミア Advanced Thalassemia)以上のことから、生長の家は、倫理性、安全性、さらには実効性の面で問題の多い人クローン胚の研究に力を注ぐかわりに、すでに治療実績のある体性幹細胞の研究に注力すべきと考える。
言うまでも無く生長の家は今後も生命尊重の運動を続けさせていただきますし、最大の生命軽視である戦争を推進している自民党政権への不支持も貫いていきます。
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立憲民主主義が学べる本
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生長の家発行・谷口雅宣先生監修の立憲主義の必要性を訴えたブックレットです。現在の岸田政権にも受け継がれている安倍政治の根本的な問題が記されています。
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地球環境問題や生命倫理問題について、今世紀初頭から警鐘を鳴らしている本です。菜食を推奨する理由やES細胞(胚性幹細胞)等に反対する理由が判りやすく述べられています。
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