ヤマトタケルの「クマソタケル暗殺説話」ってどんな話？――ヤマトタケル説話の考察（１）

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　読者の中にもヤマトタケル説話を知らない人がいるかもしれないので、今回はヤマトタケル説話の内容のあらすじを紹介しつつ、ヤマトタケルによるクマソタケル暗殺事件について考察します。

　さて、『古事記』によるとヤマトタケル説話は次のようになります――

　ヤマトタケルの父親の景行天皇は、かなりの女好きでした。

　当然のことながら側室の数は多く、そして、子供はなんと、80人もいました。記録に名前が残っているだけでも、21人も子供がいたのです。

　その21人の子供ですが、母親の名前が不明の子供もいます。語り部が側室の名前を一々覚えるがバカらしくなって、伝承するのをやめたのでしょう。

　ヤマトタケルの母親に当たるのは、播磨の稲日太郎姫です。稲日太郎姫の子供は5人、ヤマトタケルは三男で幼い頃は「小碓命」と呼ばれていました。次男は「大碓命」でコンビみたいな名前です。

　なお、稲日太郎姫の長男の櫛角別王は「王」とつくからにはなにがしらの実績を残していたはずですが、すっかり影が薄くなっています。というのも、弟の大碓と小碓が目立ちすぎていたからです。

　どうして大碓と小碓が目立ったのか、というと、景行天皇の女癖が悪かったことにすべては起因します。

　景行天皇は美濃の国の大根王に超美人な姉妹の娘がいるという噂を聞きます。そして、よしたらいいのに、息子の大碓に

「美濃の大根王の娘二人を連れてこい！」

と、命令します。ええと、これ、三流ラノベの話じゃなくて、『古事記』の話ですので誤解のないようにお願いします。

　だいたいオチが見えてくる話ですが、そうです、大碓はその超美人な姉妹を迎えに行くと、自分がその姉妹を好きになってしまいます。

　で、大碓はその姉妹を自分のものにしてしまい、さらに子供まで産ませてしまいます。

　そして、父親の景行天皇には、別の女性二人を連れてきて

「この二人が、美濃の大根王の娘である超美人な姉妹です！」

と嘘を言って献上します。

　そして、このウソは景行天皇にすぐバレました。多分、大碓が連れてきた女は全然、美人ではなかったのでしょう。

　で、大碓は父親と会うのが気まずくなり、朝と夕方の食事にも顔を出さなくなります。

　当時の大和王朝の幹部や王族は大王と一緒に朝夕の食事をとっていたようですね。景行天皇の子供数十人が会食できるとは、景行天皇の宮殿があった纏向にはかなり大きな食堂があったと思われます。

　そこで景行天皇は小碓に言います。

「お前の兄の大碓は、最近、全然食事に出ていないじゃないか。食事に出るように教えさしてやってくれ。」

　当時は妻問婚ですから、母親が一緒であれば住む家も一緒です。だから景行天皇も小碓に命令したのでしょう。

　ところが、それから五日たっても大碓は食事に来ません。そこで、景行天皇は

「小碓よ、お前の兄はまだ食事に来ないではないか。ちゃんと教えてやったのか？」

というと、小碓は

「もう既にさとしましたよ。」

といいます。

「どうやって諭したんだ？」

「全然食事に来ないので、朝彼がトイレに行ったところを襲い、手足を引きちぎって殺してやりました。」

　この答えを聴いて、景行天皇が驚いたのは言うまでもありません。景行天皇は内心では小碓を怖がり、厄介払いしようとします。

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　と、ここまでの話ですが、『日本書紀』は全面的にカットしています。

　どこからカットしているのか、というと、景行天皇に子供が80人もいたことから、カットしています。

　代わりに、『日本書紀』では景行天皇は九州大遠征を行って熊襲を平定したカッコいい英雄として描かれていますが、当然、それは嘘です。これについては古田武彦先生が『盗まれた神話』で九州大遠征説話は九州王朝の歴史書からの盗用と分析していましたが、私も同じ意見です。

『日本書紀』からすると、景行天皇が『古事記』に出て来るような人物だと困る訳ですね。女好きなうえに、自分の息子に女を奪われた大王の存在に『日本書紀』の編者が困ったことは想像に難くありません。

　小碓（ヤマトタケル）についても、彼が同母兄の大碓を殺した話は綺麗にカットしています。

『日本書紀』の歴史観ではヤマトタケルは景行天皇の愛する息子で日本の英雄でなければいけませんから、兄殺しだと問題がある訳ですね。

　ヤマトタケル説話は『古事記』と『日本書紀』では異なる部分が多いのですが、『日本書紀』の方は明らかに天皇家美化のための改作が行われているので、『古事記』の話を基に続けます。

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　景行天皇は小碓に命令します。

「西の方にクマソタケルという兄弟がいる。こいつらは悪いやつだから、殺せ！」

　自分の息子を厄介払いするために、九州王朝の大王の暗殺を命じるとは、景行天皇も中々のものです。

『古事記』を見る限り、景行天皇は日本史上最も器の小さい天皇になってしまいます。そりゃあ、『日本書紀』が歴史改竄したくなる気持ちもわかるというもの。

　さて、小碓は自分が父親に嫌われている（というか、怖がられている）ことに気付かなかったようで、叔母さんの倭姫に服と剣をもらうと、九州へと旅立ちます。

　ちなみに、倭姫は伊勢神宮を今の場所に定めた人ですよ～。

　初代斎宮の倭姫と、景行天皇が姉弟だとは信じにくいかもしれませんが、それが現実です。

　さて、小碓がいざ、九州王朝の本拠地に乗り込むと、九州王朝の大王であるクマソタケルの家は兵士が三重に取り囲んで警備をしている。これじゃあ、忍び込むのも大変です。

　すると、その屋敷の人たちが

「新しい屋敷が出来たお祝いの酒宴の準備をしないとな。」

等と言いながら、食物を集めているではありませんか！

　というか、小碓が来た時はちょうど、クマソタケルが新しい宮殿を作ったばかりの時だったわけですね。

　そこで小碓は頭を使います。

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　ここで小碓がした行動とは、フェミニストが大喜びしそうな行動、すなわち、女装です。

　叔母さんにもらった服を着て、少女に変身、そのまま屋敷の中に入って行ったのです。

　このことから、小碓がこの時、まだ女装しても違和感がないぐらいには子供だったことが分かります。あと、言い忘れましたが、小碓、つまり、ヤマトタケルは日本史上最初の女装男子ということになります。

　そういや、現代日本でも全共闘世代のフェミニストがユニセックスとかいうファッションを弘めたらしくて、私もその被害を受けたことがありました。

　以前、過去に大阪一帯を縄張りにしていたという女友達と難波に行った際、なんか如何にも「ナンバ！」という感じの服屋に連れて行かれて、

「日野君、これ、似合うんじゃない？」

と、その女友達が笑いながら示したのが、ユニセックスの服でした。私は

「そんな左翼的な服、着たくないです。」

と言いましたが、99.99%、通じていませんね。

　話を戻します。小碓が着たのは別にユニセックスファッションではなくて、本当に叔母さんが来ていた服です。

　オバサンの服を着て少女に化けることが出来るのか、も大いに謎ですが、今の難波とは違い、古代の九州では少女とオバサンの服装に対して違いはなかったのかも、しれません。

　すると、クマソタケル兄弟、女装した小碓を見て気に入り、自分たちの間に座らせて酒を注がせました。

　小碓がそこまで美少女に化けたということは、小碓自身の容姿も良かったのでしょうが、倭姫のファッションセンスも良かったのでしょうね。

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　そして、小碓はクマソタケル兄弟が酒に酔ってきたのを見計らって、まず、兄の方の胸を剣で刺し殺しました。

　それをみてビビった弟はあわてて逃げようとしますが、あっさり小碓に捕まってしまいます。そして、小碓は彼の尻から剣を刺します。

　弟の方のクマソタケルは

「どうか、その剣を動かさないでください！言いたいことがあります！」

と言いました。そこで小碓は彼を組み伏せたうえで、暫くの猶予を与えました。

「あなたは何という名の方ですか？」

「私は纏向の日代宮（景行天皇の宮殿）に居られる大帯彦大王の息子、ヤマトオグナであるぞ！お前らクマソタケルは悪いやつらだから、お前らを殺せと命じられてやってきたのだ！」

　大帯彦は景行天皇ことです。なお、ヤマトオグナは「大和の少年」という代名詞ですが、この当時はよほどのことがないと本名を名乗らないので、仕方がないでしょう。

　それにしても、小碓のセリフからは自分の父親を疑っていない姿が感じ取れます。彼がまだ幼かったからでしょうか？

　さて、小碓の名乗りを聴いたクマソタケルは言います。

「そうだったのか。このあたりに私たちよりも強い人間はいないと思っていたが、大和には私たちよりも強い男がいたとは！私たちはクマソタケルを名乗っているが、あなたはヤマトタケルと名乗ってください。」

　なんか、自分たちのことを九州で一番強いみたいなことを言っていますが、酒に酔ってあっさりとやられてしまう当たり、実は大したことなかったのか、それとも、酒に弱い体質だったのか、いずれかでしょうね。

　さて、それを聞いた小碓は彼の体を、瓜を切るかのように真っ二つに切って、それ以来、ヤマトタケルを名乗るようになりました。

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　と、ヤマトタケルによるクマソタケル暗殺説の概略を見てきたわけですが、ここで一番、重要なポイントは

「ヤマトタケルはクマソタケル兄弟を暗殺した時、まだ子供だった」

ということです。

　自分から「ヤマトオグナ」と名乗っていますし、違和感なく女装できる年齢なわけですからね。

　このことは、

「ヤマトタケルが殺した九州王朝の大王とは、一体、誰なのか？」

ということを考察するうえで、重要なポイントとなります。

　次回からは、ヤマトタケルが殺した九州王朝の大王は一体、誰なのか？ということを論じていきます。

　そこでいよいよ、あの卑弥呼と壱与が登場してくるのです。

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ヤマトタケル説話の考察

第一回　ヤマトタケルの「クマソタケル暗殺説話」ってどんな話？

第二回　「クマソタケル暗殺事件」の背景に壱与の影！？

第三回　247年3月24日の「卑弥呼暗殺」と魏の内政干渉

第四回　狗奴国は四国にあった

第五回　「倭建命」は三人いた！邪馬壱国と景行天皇の関係

第六回　ヤマトタケルは出雲に亡命してイズモタケルを暗殺？

（以下、続稿予定）

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